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12月10日 楽観から一転難航へ

ファビウス議長の巧みな仕切り

 第2週も10日、公式日程ではあと1日を残すのみとなりました。

 9日午後の時点では楽観的な雰囲気でした。しかし9日20時から最新版の合意文書案について各国が公式に発言する注目の「パリ委員会」が開かれると、その後は「難航」という報道が続いています。

 12月5日版の48頁+変更提案箇所11頁(本文21頁)の合意文書案は、9日15時発表の最新版では29頁(本文14頁)に絞り込まれてきました。ファビウス議長(仏外相)(写真1)は冒頭で、1)途上国への「財政支援」、「野心的」な削減目標設定と目標管理、先進国と途上国の「差異化」の3つが焦点であること、2)10日午後に最終文書にかなり近い改訂案を出すことを提案しました。


(写真1)ファビウス議長(モニター画面による)

 私は22時40分まで聞き続けましたが、予定の2時間を超えて、40ヶ国以上の発言が続いています。しかし中国・ロシア・サウジアラビアなどを含め、合意に向けて前向きの発言が続きます。とくにロシア代表が、金曜午後での採択に向けて強い意欲を表明すると、会場からは大きな拍手が湧き起こりました(写真2)。


(写真2)ロシア代表の発言

 最初に発言した南アフリカ共和国をはじめ、透明性を担保し、明確なリーダーシップを発揮しているとしてファビウス議長のリードをまず讃える発言が続きます。「G77(途上国グループ)と中国、AOSYS(島嶼国連合)」陣営からは、1.5度以内の目標設定を掲げるべきだという発言が繰り返されています。1.5度の目標設定に否定的な発言をしたのは、インドネシア、ニカラグアなどにとどまりました。

丸川大臣の発言は

 30番目を過ぎて、日本の丸川大臣が発言(写真3)。「アンブレラグループ」(EU以外の主な先進国グループの連合)*の一員としてオーストラリアの発言を支持し、合意文書案について先進国サイドから見てバランスを欠いているところがあると批判的なコメントを行いました。議長の手腕を讃える印象的な発言や合意に向けた強い意欲の表明などはありませんでした。京都会議の議長国としてファビウス議長の忍耐強い努力を讃え、各国に新しい合意に向けた積極的な協働を呼びかけるメッセージなどがあっても良かったのではないかと感じました。


(写真3)12月9日のパリ委員会で発言する丸川大臣

 30日の安倍首相のスピーチでは冒頭で京都議定書に関する簡単な言及がありますが、7日の閣僚級会合の丸川大臣の発言には、COP3京都会議や京都議定書への言及は一言もありません。12月5日のレポートで紹介したように、ドゴール空港の歓迎ボードはわざわざ「おいでやす」になっているのですけれど。

第2約束期間離脱の後遺症

 日本政府から京都議定書への積極的な言及が乏しいのには理由があります。京都議定書の第2約束期間から離脱したために、京都議定書への日本政府のコミットメントはいわば腰砕けになってしまったからです。

 京都議定書第2約束期間からの離脱は民主党政権時代の決定ですが、日本の気候変動外交の大きな判断ミスだったと私は思います。気候変動外交に関するコミットメントの一貫性が著しく弱まった結果、京都議定書に代わるパリ合意文書の採択という歴史的な局面で、日本政府は存在感のある発言が出来ないのです。

 世界は今かたずを呑んで「京都からパリへ」という新しい歴史的な合意の成立を見守っています。しかし日本政府の姿勢は期せずして、あたかも京都議定書を「忘れたい過去」にしているかのようです。

 メッセージ性に乏しいJapan Pavilion、大臣発言の根底を規定しているのは、第2約束期間からの離脱にともなう後遺症ではないでしょうか。

「化石」賞受賞なしは何を示すのか?

 温暖化会議で大人気のコーナー、毎日18時から行われるNGOグループCANによる「本日の化石」賞(写真4)。日本は交渉への消極姿勢を批判的に評価される受賞の常連国ですが、今回は9日までのところ、一度も受賞していません。気候ネットワークの出している Kikoも「存在が見えず、プレーヤーとも見られず、NGOからも見放される…バッシング→パッシング→ナッシングへ。日本の国際社会の位置づけの変化を見ているようで、さびしい限りではないか?」とコメントしています。(http://www.kikonet.org/wp/wp-content/uploads/2015/12/Kiko_COP21_No.3_f.pdf


(写真4)12月9日の化石賞(アルゼンチン、オーストラリアが1位に、ニュージーランド、カナダ、米が2位に)

 なお10日の化石賞の1位は、日本を含む「アンブレラグループ」9ヶ国*とEUに与えられました。2位は、参加196ヶ国全体という結果でした。これも交渉の難航ぶりを示すものといえます。とくに交渉を遅らせているのがどこの国かということを、さすがのCAN(Climate Action Network)も特定しにくくなっている状況を示しています。

合意文書案改訂版発表される

 10日15時から開会された全体会合(写真5)は1時間強で閉会になり、金曜午後まで中断されることになりました。


(写真5)「セーヌ」での全体会合(セネガルの副議長が臨時に議長役を務める。10日15時から開会したが、実質的な議論はなく11日に先送りに)

 9日夜のパリ委員会での発言も楽観的なトーンに聞こえましたが、9日午後の楽観的な雰囲気が一変して、悲観的な見方が強まってきた10日午後にかけての流れです。パリ委員会閉会後の非公式会合が難航したようです。

 10日午後に発表が予定されていた最終文書にかなり近い改訂版は、10日21時からのパリ委員会に提出されました。テキスト本文は11頁に圧縮され、ブラケットはずいぶん少なくなりました。

 注目の1.5度目標は、「平均気温の上昇を産業革命前と比較して2度以下に抑え、かつ1.5度までの上昇に抑えるための努力を継続する」と書き込まれ、この部分についてはブラケットがなくなりました。

参考「アンブレラグループ」とは?

 国連気候変動枠組条約の公式サイトの説明によれば、「アンブレラグループ」は京都議定書採択後に結成されたEU以外の先進国のゆるやかな連合体です。公式のメンバーリストはありません。通常、オーストラリア、カナダ、日本、ニユージーランド、カザフスタン、ノルウェー、ロシア、ウクライナ、米の9ヶ国からなります。このうち、太平洋沿岸に位置する日本、米国、カナダ、オーストラリア、ニユージーランドの五ヶ国は、国連の他の会合などでは、それぞれの頭文字をとって、JUSCANZ(ジャスカンズ)という地域グループをつくっています。温暖化会議のグループにどのようなものがあるかも下記を参照してください。
http://unfccc.int/parties_and_observers/parties/negotiating_groups/items/2714.php

文・写真:長谷川公一(全国地球温暖化防止活動推進センター長、地球温暖化防止全国ネット理事長)

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