第21回締約国会議(COP21)

COP21では何について話し合われるのか?

 私は、今回、初めてパリに来たのですが、食べ物がおいしいのにびっくりしています。豪華な食事をしたわけではありませんが、パンもチーズも肉も野菜もおいしいのです。


写真1: 宿舎近くのカフェで食べた、シュークルート。フランスのアルザス地方の名物料理です。キャベツの漬物と、ソーセージやベーコン、豚のすね肉などと一緒に煮て、ゆでたジャガイモをつけ合わせたものです。

 さて、今日は、なぜCOP21が重要なのか、そして、COP21では何について話し合われるのかをお伝えします。

 COP21では、2020年以降、すべての国が参加する温暖化対策の新しい国際枠組みをどのようなものにするかについて合意することになっています。

 なぜ今回なのでしょうか?それは、2011年にダーバン(南アフリカ)で開催されたCOP17で、この新しい枠組みについて、2015年末まで、つまり、今回のCOP21までに決めることと締め切りが決められたからです。


図1:温暖化交渉の流れ(出典:筆者作成)

 交渉の経緯や、初日に開催されたリーダーズ・フォーラム(30日の記事参照)の各国首脳の発言などを踏まえると、COP21では、以下の4点が主な論点になりそうです。


図2:COP21の論点(出典:筆者作成)

 なぜ、COP21で、新しい枠組みに合意することが重要なのでしょうか。

 2013年から2014年にかけて公表された、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書によれば、世界の平均気温は、産業革命以降の約130年間で0.85℃上昇しました。このまま有効な温暖化対策をとらないままであれば、21世紀末には、2.6℃~4.8℃上昇すると予測されています。非常に多くの温暖化対策が取られた場合でも、0.3~1.7°C上昇する可能性が高いと予測されています。

 もし、この記事を読んで下さっている方の中で、「温暖化って本当なのかな?」とか「“温暖化は嘘だ”という主張を時々目にするから、何が正しいのかよくわからなくなってしまう…」などと思っている方がいらしたら、国立環境研究所の江守正多室長による記事、「いまさら温暖化論争? 温暖化はウソだと思っている方へ」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/emoriseita/20151202-00051987/)(2015年12月2日)も読んでみて下さい。

 話を元に戻します。気温が上がるとどうなるのでしょう?IPCCの第5次評価報告書では、「生態系や文化など固有性が高く脅威にさらされるシステムへの影響」「極端な気象現象」「農作物や水不足などの地域的な影響」「生物多様性の損失などの世界的な影響」「氷床の消失などの大規模な特異現象」の5つの包括的な懸念材料が、気温が上がるほど危機的な状況になるとしています。

 現在の国際社会の温暖化対策の基盤は、気候変動枠組条約(1992年採択、1994年発効)です。現在、195か国+EUが批准していて、世界中のほとんどの国がこの条約のメンバーとなっています。この条約が最終的に目指しているのは、温暖化が、人間や自然に対して、ひどい影響を及ぼさないような水準で止まるように、ある期間内に、大気中の温室効果ガス濃度を安定化させることです。しかし、このために、いつまでに大気中の温室効果ガス濃度を何ppmにしなければならないかとか、世界全体で温室効果ガスを何トン減らさなければならないかとか、世界の平均気温上昇を何℃までに抑えるかなどといったことは書かれていません。

 今、国際社会は、産業革命以前からの世界の平均気温上昇を2℃までに抑えることを目指しています。これは、COP16(2010年、カンクン)で合意されました。「2℃目標」とか「2℃未満目標」などと呼ばれます。ここでは「2℃目標」と言います。

 2℃目標の意味するところについては、国立環境研究所の江守正多室長の記事「世界平均気温は上昇を続け「+1℃」到達:COP21の背景にある「+2℃」目標の意味とは?」(2015年11月28日)(http://bylines.news.yahoo.co.jp/emoriseita/20151128-00051826/)をご覧下さい。

 重要なのは、気温上昇をどのくらいまでに抑えるかを決めると、今後CO2をどれくらい排出できるかが決まるということです。それは、CO2の累積排出量(これまでに排出されてきたCO2を足し合わせたもの)と世界の平均気温の上昇量は、ほぼ比例関係にあるからです。たとえば、2℃目標を50%超の確率で達成するには、温室効果ガスの累積排出量の上限が820GtC程度と予測されています。2011年における温室効果ガスの累積排出量が515GtCに達していますので、あと305GtC程度までの排出が上限となります。

 「2℃目標を達成するためには、温室効果ガスをあと305GtCぐらいしか排出できません」と言われても、ぴんとこないかも知れません。これは、どれくらいの対策をとることを意味するのでしょうか。おおざっぱに言えば、2℃目標を達成するためには、21世紀中に世界のCO2排出量をほぼゼロにすることが求められます。つまり、先進国だけでなく、これから経済発展する途上国も含めて、今世紀末には、CO2を出さない世界を作っていく必要があるということです。

 今回のCOP21での合意は、国際レベルの温暖化対策にとって、大きな転換点のひとつとなりそうです。それは、温暖化対処のための国際枠組みの大きな課題のひとつである、「先進国」と「途上国」という硬直化したグループ分けと役割分担とを乗り越えることができる可能性があるからです。

 皆さんは、どういう国を「先進国」だと思っていますか?実は、先進国と途上国とを分ける唯一の明確な基準はありませんが(後発発展途上国(LDC)がどの国かについては国連で決まっています)、気候変動枠組条約では、先進国と途上国とのグループ分けが成されているのです。

 気候変動枠組条約では、先進国(=条約採択当時の経済開発協力機構(OECD)加盟国。OECDとは、先進国間の自由な意見交換・情報交換を通じて、①経済成長、②貿易自由化、③途上国支援、の3つに貢献することを目的とした国際機関)と経済移行国のリストを条約附属書Ⅰに掲げて、「附属書Ⅰ国」としています(図2参照)。条約上、これらの国々は、自国の排出削減を行うことが求められています。京都議定書(1997年採択、2005年発効)でも、「排出削減数値目標を持つ先進国(+経済移行国)」と「目標を持たない途上国」という区分がなされています。


図3:気候変動枠組条約上の国の区分とそれぞれの責務(出典:筆者作成)

 気候変動枠組条約が採択されてから、20年以上の月日が流れていますが、この条約附属書Ⅰ国のリストは当時のままです。条約採択後にOECDに加盟した、メキシコ(1994年加盟)、韓国(1996年加盟)、チリ(2010年加盟)は、このリストには含まれていません。また、OECDには加盟していませんが、急速に経済成長を遂げ、GDP世界第2位となり、世界最大の温室効果ガスの排出国となっている中国をはじめ、新興国も、このリストには含まれていません。

 既に述べたように、2℃目標を達成するためには、今世紀末に世界全体でCO2の排出をゼロにする必要があります。この条約の附属書Ⅰ国(先進国+経済移行国)と非附属書Ⅰ国(発展途上国)のグループ分けや役割分担を固定した仕組みでは、地球全体での温室効果ガスの削減を進めていくことはできません。そこで、COP17(2011年、ダーバン(南アフリカ))で、2020年以降、先進国も、途上国も、すべての国が参加する、温暖化対処のための枠組みを作ることになったのです。

 先進国は、先に述べたような、先進国と途上国のグループ分けと役割分担を今後も継続することに対して、強く反対しています。これまでの交渉でも、「そのような立場にある国は...」などと抽象的な表現で、これまでのグループ分けではなく、国の経済発展水準に応じて差異化するように主張しています。

 これに対して、途上国は、気候変動枠組条約とそこに掲げられている「共通だが差異ある責任原則」を根拠にして、これまでのグループ分けと役割分担を維持し、途上国も温暖化対策をとるけれども、率先して温暖化対策をとるべきなのは先進国であると主張しています。初日のリーダーズ・フォーラムで、中国の習近平国家主席が「パリ合意は、気候変動枠組条約上の原則に従い、同条約の完全実施に焦点を当て」るものにすべきと発言していましたが、これは同じ趣旨です。

 実態に合わないのであれば変えるべきという先進国の主張はその通りだと筆者も思いますが、では、どのように差異化すればいいのかというのは、大変難しい問題です。今後はもちろん途上国も含めて世界全体で排出削減を進めていかなければなりませんが、これまで先進国が温室効果ガスをたくさん排出してきたことはどうなるのか、という問題があります。また、新興国の温室効果ガスの排出量がかなり増大しているのは事実ですが、もともと温室効果ガスの排出量が極めて少ないため、自国で削減する余地はなく、温暖化による被害を受ける一方、という途上国がたくさんあることを忘れてはいけません。どのように差異化をはかることが、各国の納得を得られるのか、つまり、新しい国際枠組みの中で衡平性をどのように確保するかが、COP21の成功を握る鍵のひとつと言えます。


写真2:会場内のミニエッフェル塔

 明日以降、会場内の様子や交渉の進捗状況と一緒に、上に挙げたCOP21の4つの論点がどういう問題なのかを解説していきます。

文・写真:久保田泉(国立環境研究所社会環境システム研究センター主任研究員)

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