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米国、メキシコ、ドイツ、カナダが温室効果ガス低排出型発展のための長期戦略を提出

  パリ協定の締約国になると、何をすることが求められるのでしょうか?

  このレポートを丹念に読んで下さっている方なら、「5年ごとに温暖化対策に関する目標を設定・提出し、その達成に向けて努力すること」と答えて下さるかも知れません。正解ですが、実は、他にもあるのです。

 そのひとつが、2020年までに、温室効果ガス低排出型発展のための長期戦略を作り、気候変動枠組条約事務局に提出することです。


写真1:COP22会場前に掲げられた各国の国旗

 

  パリ協定第4条19項では、「すべての締約国は、各国のそれぞれの事情が異なっていることに留意し、共通に有しているが差異のある責任及び各国の能力を考慮しつつ、第2条の規定(筆者注:パリ協定の目的、すなわち、産業革命前からの地球平均気温上昇を2℃よりも十分低く抑えること及び1.5℃に抑える努力を追求することが記されています)に留意して、長期的な温室効果ガスの低排出型の発展のための戦略を作成し、及び提出するよう努力すべきである。」とされています。COP21決定により、その期限は2020年までとされています。

  今年(2016年)の伊勢志摩サミットでも、G7諸国は、2020年の期限に十分先だって、今世紀半ばの温室効果ガス低排出型発展のための長期戦略を策定し、提出することを確認しています。


写真2:会場内にあるタイヤアート。パリ協定の目的達成に向けて努力する人類の姿を示しているのでしょうか。会場内には、いろいろなオブジェがあるのですが、解説がついていません。解説がついていたらいいのに、と思いつつも、筆者はいろいろと想像して楽しんでいます。

 

 長期戦略の提出期限である2020年にはまだ余裕がありますが、昨日(2016年11月16日)には、米国とメキシコが、今日(11月17日)は、カナダとドイツが、それぞれ、温室効果ガス低排出型発展のための長期戦略(以下、長期戦略と呼びます)を気候変動枠組条約事務局に提出しました。気候変動枠組条約事務局に提出された長期戦略は、こちら(http://unfccc.int/focus/long-term_strategies/items/9971.php)から見ることができます(いずれも英文または仏文)。

  米国は、長期戦略「United States Mid-Century Strategy: For Deep Decarbonization」の中で、2050年までに、2005年比で80%以上の排出削減を実現するための排出経路(筆者注:どのようなペースで排出削減を実現していくか)を示しています。メキシコの長期戦略「Mexico’s Climate Change Mid-Century Strategy」では、2000年比で、50%の排出削減を実現する排出経路が示されています。ドイツは、長期戦略「Climate Action Plan 2050: Principles and goals of the German government’s climate policy」の中で、2050年までに、温室効果ガス排出量を、1990年比で80~95%削減するとしています。カナダの長期戦略「Canada’s Mid-Century Long-term Low-Greenhouse Gas Development Strategy」では、2050年までに、温室効果ガス排出量を1990年比で80%削減するとしています。

  いずれも、パリ協定の目的を達成するため、自国の温室効果ガスの排出をゼロに近づけるための複数の経路を示し、エネルギー部門の脱炭素化(CO2排出をなくすこと)をはかるという将来のビジョンを明確に提示しています。

  今後、各国が策定・提出することになる長期戦略は、非常に重要です。パリ協定の目的(2℃目標)及び今世紀後半の温室効果ガスの人為的な排出と吸収とのバランスという長期目標を、パリ協定の締約国となっている国は共有していますが、では、各国はこの目的や長期目標を達成するために何をするのか、ということについては、今のところは各国が提出している2025年/2030年の気候変動対策の目標しかありません。また、このパリ協定の目的や長期目標は、「なんとなく」達成できるものではなく、戦略が必要とされます。長期の排出削減というと、日本では、技術革新のみに焦点が当てられがちですが、経済社会システムや私たちのライフスタイルの変革も必要です。そして、各国の2025年/2030年の気候変動対策目標がすべて達成されたとしても、2℃目標の達成にはほど遠いとされています。2℃目標の達成にはほど遠い現状から、十分に余裕を持って2℃目標を達成するという世界中の人々がパリ協定に描いた未来とをつなぐ道筋、それが長期戦略なのです。


写真3:サアード朝の墳墓群(サアード朝(1549年~1659年)の代々のスルタンが葬られている大墓廟群)の近くにいた猫

 

 日本は、第4次環境基本計画(2012年4月閣議決定)において、「長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す」という目標を立てていますが、その目標に到達するまでにどのような道筋をたどるかについての戦略を持っていません。マラソンに例えると、ゴール地点は決まっているけれども、どの道を走るかは決まっていない、といったところでしょうか。気候変動対策については、ゴールに向かう経路は一つではなく、複数あるということは、マラソンとは違いますが。

 日本は、パリ協定の採択を受けて、今年(2016年)の夏から、長期戦略の策定に着手しています。環境省では、長期低炭素ビジョン小委員会を設置し、経済産業省では、長期地球温暖化対策プラットフォームを設置し、両方とも、2017年3月末までに結論を出す予定です。これらの会議でどのように議論が進められているのか(配布資料や議事録)については、長期低炭素ビジョン小委員会(環境省)については、こちら(http://www.env.go.jp/council/06earth/yoshi06-18.html)から、長期地球温暖化対策プラットフォーム(経済産業省)については、こちら(http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment.html)(経済産業省が設置している環境・エネルギー関係の審議会・研究会等の資料等が掲載されているページ)から、それぞれ、見ることができます。


写真4:COP22のロゴの入った切手の模型。COP22参加者が名前やメッセージを書き込んでいます。筆者もここに書き込みました。

 

 米国、メキシコ、ドイツ、カナダがこんなにも早くに長期戦略を提出したことは、パリ協定の採択及びその異例の早期発効と並んで、世界の気候変動対策がパリ協定採択前とは確実に変わって、長期を見据えたものとなり、そして、この流れが今後も続いていくこと、まさに、「ゲームのルールが変わった」ことを示すできごとのひとつだと感じました。

 

文・写真:久保田泉(国立環境研究所社会環境システム研究センター主任研究員)

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