第20回締約国会議(COP20)

カーボン・バジェットとは?

 12月なので、街のあちこちにクリスマスツリーやリースなどが飾られています。こちらは初夏で、日中は暑いくらいなので、クリスマスソングを聞いていても、何だか不思議な感じがします。


写真1:ホテル近くのショッピングセンターにあるクリスマスツリー

 さて、今日は、カーボン・バジェットという考え方と、この考え方についての情報が盛り込まれている国連環境計画(UNEP)の排出ギャップ報告書の内容を紹介します。

 まず、カーボン・バジェットとは、気温上昇をあるレベルまでに抑えようとする場合、温室効果ガスの累積排出量(過去の排出量+これからの排出量)の上限が決まるということを意味します。過去の排出量は推計されているため、気温上昇を何度までに抑えたいかを決めれば、今後、どれくらい温室効果ガスを排出してもよいかを計算できるということになります。バジェット(予算)という語が示す通り、我が家で今月使えるお金(予算)は20万円、今までに12万円使ったから、残りは8万円、なんていうのと同じような考え方です。

 昨年から今年にかけて公表されたIPCC第5次評価報告書によれば、CO2以外の効果も考慮すると、たとえば、産業革命前からの世界平均気温上昇を50%の確率で2℃以内に抑えるためには、840GtCの累積排出量が上限となります。2011年までに、およそ530GtC排出していますので、2012年以降排出できる量は310GtCということになります。つまり、私達は、2℃目標を達成するためのカーボン・バジェットの6割を既に排出してきているのです。


写真2:昼休み、昼食をとる参加者で混み合うカフェテリア

 国際社会の気候変動対策は、何を目指しているのでしょうか。気候変動枠組条約第2条は、「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」を最終的に目指すべきところとしています。条約の文言そのままでは理解しづらいかも知れないので、少し噛み砕くと、「気候変動が、人間や自然に対して、ひどい影響を及ぼさないで済むくらいの大気中の温室効果ガス濃度に止めること」です。

 「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすことにならない水準」がどれくらいのことを指すのか、条約には書かれていません。条約ができてからも、科学者も研究を続けてきましたし、政策決定者も議論を重ねてきました。2050年までに地球全体でどれくらい温室効果ガスを減らさなければならないかということは重要な論点のひとつです。

 COP16(カンクン(メキシコ)、2010年)で採択されたカンクン合意では、「世界全体の気温の上昇が2℃より下にとどまるべきであるとの科学的見解を認識」するとされました。先に、カーボン・バジェットの解説のところで、「産業革命前からの世界平均気温上昇を50%の確率で2℃以内に抑える」ことを例に挙げましたが、この「2℃」というのはカンクン合意からきています。カンクン合意に基づいて、先進国は2020年の排出削減目標を、発展途上国は排出削減行動を条約事務局に提出しています。

 ここで問題になるのが、①先進国の削減目標や途上国の削減行動をすべて足し合わせた場合、世界全体での排出削減量はどれくらいになるか、そして、②国際社会が目指している「世界全体の気温の上昇が2℃より下にとどまる」ということの実現に十分なのか、ということです。足し算すればわかるんじゃないの?と思われるかも知れませんが、これは簡単な作業ではありません。前提条件が国ごとにまちまちですし、幅を持たせた目標(たとえば、20-30%)もありますし、途上国はGDP当たりの削減目標を出したりもしているため、単純に足し合わせることができないのです。

 上記①と②との間には、とても大きな隔たりがあることがわかっています。気候変動交渉の文脈では、これを「排出ギャップ」と呼んでいます。UNEPは、この「排出ギャップ」がどれくらいかに関する報告書を2010年以降毎年公表してきています。UNEPは、今年も、COP20のタイミングに合わせて、「排出ギャップ報告書2014年版」(The Emissions Gap Report 2014)を公表しました。2014年版の報告書では、排出ギャップがどれくらいかに関する分析のアップデート版が示されています。そして、先に説明したカーボン・バジェットの考え方に着目している点がこれまでの版との大きな違いです。さらに、この報告書では、2025年と2030年における排出ギャップの算定もなされています。これは、現在、2020年以降の気候変動対処のための国際枠組みについての交渉が行われており、2020年以降の時間枠組みに着目が集まっているためです。

 「排出ギャップ報告書2014年版」には、以下のようなことが書かれています(筆者が報告書の要旨を抜粋して日本語に訳しました)。

■カーボン・バジェットという考え方に従えば、2℃目標を達成するための排出レベルとそのタイミングについて、どのようなことが言えるでしょうか?

―地球の平均気温上昇を2℃より下に止めるには、2055年から2070年の間のいつかの段階で、カーボン・ニュートラル(筆者注:ライフサイクルの中で、CO2の排出と吸収とがプラスマイナスゼロのことを意味する)を達成する必要があります。

―地球の平均気温上昇を2℃より下に止めるには、すべての温室効果ガスの排出を2080年から2100年の間のいつかの段階で実質ゼロにする必要があります。

―2020年の各国の排出削減を、現在各国が提出している排出削減目標(先進国)/排出削減行動(発展途上国)を上回って達成できれば、上述のカーボン・ニュートラルやすべての排出量を実質ゼロにするタイミングを遅らせることができます。

―カーボン・バジェットという考え方に従えば、地球の平均気温上昇を2℃より下に止めるための地球全体の温室効果ガスの年間排出量のレベルを計算することができます。この条件の下では、2050年の地球全体の排出は、2010年に比べて、約55%削減する必要があります。2030年までに地球全体の排出量を減少に転じさせ、早期のピーク・アウトの後、2010年に比べて10%以上削減する必要があります。

■気候変動対策が遅れるとどうなりますか?

―厳しい排出削減を延期すると、さらに費用がかかることになり、より高いリスクを社会に課することになります。

■追加対策をとらない場合には、どのようになりそうですか。

―科学的知見から、地球の平均気温上昇を2℃より下に止めるためには、温室効果ガスの排出をすぐに減少に転じさせなければならないことは明らかですが、地球全体の温室効果ガスの排出は増え続けています。追加的な気候変動対策をとらない場合には、2050年まで、地球全体の温室効果ガスの排出量は大幅に増え続けるでしょう。

■2020年の排出ギャップはどうなりそうですか。

―2020年の排出ギャップは、昨年までの推計に比べても、小さくなっていません。各国の2020年の排出削減目標(先進国)/排出削減行動(発展途上国)は、地球全体の排出量を追加対策なしケースのレベルより緩やかに減らす効果を持つのみです。

■2030年の排出ギャップはどうなりそうですか。

―2030年の排出ギャップは、14-17ギガトン(CO2換算)と算定されていますが、地球全体の排出量削減策をすべてとれば、このギャップを埋めることができます。


写真3:ペルー軍の兵士の銅像。今回の会場は、 ペルー陸軍司令部(Cuartel General del Ejercito del Peru)の敷地の中に建てられた仮設の会議場です。シャトルバスのバス停に向かう途中でこの像を見ます。

 気候変動交渉担当官達は、この排出ギャップ報告書のメッセージをどのように受け止め、そして、ここリマでどのような成果を出すのでしょうか。

参考資料: ・UNEP(2014) The Emissions Gap Report 2014.
http://www.unep.org/publications/ebooks/emissionsgapreport2014/ (英語)

文・写真:久保田 泉(国立環境研究所社会環境システム研究センター主任研究員)

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