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望月環境大臣の閣僚級会合での演説/気候変動対策のお金の話

 今日、閣僚級会合で、望月義夫環境大臣が演説しました。望月環境大臣は、日本が「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書の内容を重く受け止めて」おり、「2050年までに世界全体で50%減、先進国で80%削減という目標を改めて掲げ、貢献していく」と発言しました。なお、日本は、「低炭素社会を目指し、2050年までに世界全体で温室効果ガス排出量の半減を実現するためには、主要経済国はもちろん、世界のすべての国々がこの問題に取り組む必要がある」とし、「日本としても、2050年までの長期目標として、現状から60~80%の削減を行う」との内容を閣議決定しています(低炭素社会づくり行動計画(2008年7月29日閣議決定))。


写真1:カラフルなディスプレイ

 また、望月環境大臣は、2020年以降の国際枠組みについて、「全ての国が参加する公平かつ実効的なものとする必要があり」、「全ての国が、定量化可能な約束草案を提出し、約束達成のために国内対策を実施するとともに、実施状況に関する点検・評価を受ける義務を負うことが重要で」あるとの認識を示したうえで、日本のINDC(各国が自主的に決定する約束草案)の準備状況については、「COPの決定、各国の動向や将来枠組みに係る議論の状況、エネルギーミックスに係る国内の検討状況等を踏まえて検討し、できるだけ早期に提出することを目指す」としました。

 さらに、望月環境大臣は、日本国内において、再生可能エネルギーの導入拡大、徹底した省エネ社会の実現、フロン類の排出抑制対策の強化を進めていくと述べました。そして、日本の環境技術及び環境科学で世界全体の排出削減に貢献するとして、二国間クレジット制度、様々な地域での森林保全、9月の国連気候サミットで安倍総理が表明した「適応イニシアチブ」について言及しました。さらに、途上国への資金支援として、「国会の承認が得られれば、最大15億ドルを拠出したい」と表明し、他国からのさらなる拠出も呼びかけました。


写真2:会場内のフードコートにある寿司バー「ASAKUSA」

 さて、今日は、近年、ますます関心が高まっている、途上国への資金支援の問題について解説します。途上国における気候変動対策に必要とされる資金を調達・動員し、管理する国際的なメカニズムをどのように構築するかが、2020年以降の国際枠組みに関する交渉の鍵を握っています。

 気候変動枠組条約では、附属書II国(筆者注:条約制定当時のOECD加盟国)は、条約上の約束を途上国が実施することを支援するために資金を供与することとされています(第4条3項)。途上国による気候変動対策を促進するための資金供与制度(資金メカニズム)が設置され、これについては、条約第11条に定めがあります。地球環境ファシリティ(GEF)が、この資金メカニズムの運営主体となっています。さらに、マラケシュ合意(2001年)により、気候変動枠組条約の下には、特別気候変動基金(Special Climate Change Fund: SCCF)と後発発展途上国基金(Least Developed Countries Fund: LDCF)が、京都議定書の下には適応基金(Adaptation Fund: AF)がそれぞれ新たに設置されました。

 これらの気候変動枠組条約及び京都議定書の下の資金供与メカニズムは、途上国が気候変動対策のために必要とする資金の規模と比べると、著しく不十分なものでした。気候変動枠組条約事務局は、2030年までに途上国における温室効果ガス排出削減のために年間680億米ドル程度の費用が追加的に必要で、さらに、適応のためにも年間280~670億米ドル程度が必要との試算を出しました。一方、途上国が気候変動対策に利用できる資金は、約270億米ドルです。

 そこで、このギャップを踏まえて、COP15(2009年、コペンハーゲン(デンマーク))では、先進国が共同で達成を目指す資金動員の目標額が設定されました。すなわち、短期資金として2010‐2012年の間に300億米ドルに近づけること、長期資金として2020年までに年間1000億米ドルを動員することです。COP16(2010年、カンクン(メキシコ))においては、上記の資金動員目標が正式なCOP決定として採択され、また、緑の気候基金(Green Climate Fund : GCF)が設立されました。また、条約下の資金メカニズムを総括する資金常設委員会が設置されました。2013年に、GCF理事会とCOPとの了解覚書が採択され、GCFが正式に条約第11条の資金メカニズムの一部となりました。2014年、GCF理事会が資金運用規程を採択し、初期資金動員を開始しています。


写真3:会場入り口にあるmarca Peru(ペルー・ブランド)のロゴ

 COP20直前の11月20日、ベルリン(ドイツ)で、初めてのGCFのプレッジング会合(筆者注:プレッジとは、資金をどれくらい拠出するかを表明することを意味します)が開催され、ここで、21か国(筆者注:先進国中心ですが、いくつかの途上国も拠出しています)によるプレッジが最大93億米ドルになったことが報じられました。日本も、最大15億ドルを拠出する意向を表明し、これは表明国中2番目に大きな額です。

 これまで、GCFは、“(GCFという)財布は作られたが、中のお金はからっぽ”としばしば揶揄されてきていました。このプレッジング会合の成果は、COP20での議論を前進させる明るい要素として受け止められました。そして、昨日(9日)、GCFの各国のプレッジ額が100億ドルを超えたことが報じられました。COP20でも、GCFに関する協議が現在も継続されています。


写真4:ペルー料理のひとつ、アヒ・デ・ガジーナ(鶏肉の唐辛子チーズクリーム煮)。辛味はそんなにありません。

 それから、今日も、一日中、強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)のコンタクト・グループでの合意文書案の修正作業が行われました。今日は、ワークストリーム2(2020年より前の気候変動対策の強化)に関して議論するコンタクト・グループと、COP決定案の中のINDCに関連する問題を議論するコンタクト・グループとが並行して開催されました。

 COP20決定案のコンタクト・グループ会合が終わったのは、深夜0時半を回っていました。共同議長案を基盤として、修正作業は進められていますが、INDCと一緒に提出を求める情報について先進国と途上国とで差異を設けるかなど、いくつかのパラグラフでは多くの修正案が付されており、これをどのように解消するかはかなり難しい問題で、時間も相当かかりそうです。

 COP20も佳境に入ってきました。ADPは、明日、コンタクト・グループでの作業を終えて、全体会合を開いてADPの結論を採択し、これをCOP20に送る予定になっていますが、どうなるでしょうか。


写真5:深夜の会場

参考資料:
・緑の気候基金webサイト(英語)http://news.gcfund.org/
・緑の気候基金プレスリリース「緑の気候基金第1回プレッジング会合、史上初の93億米ドルのプレッジを達成」(”First Pledging Conference of Green Climate Fund Yields unprecedented US$ 9.3 billion”)(英語)
http://www.gcfund.org/fileadmin/00_customer/documents/Press/GCF_Press_Release_2014_11_20_Berlin_pledges.pdf

・望月義夫環境大臣のCOP20におけるステートメント全文
http://www.env.go.jp/annai/kaiken/h26/s1211.html

 

文・写真:久保田泉(国立環境研究所社会環境システム研究センター主任研究員)

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