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気候変動による損失と被害(ロス&ダメージ)とは?(11月21日)

ここ数年、気候変動COPでは、毎回、ロゴとスローガンが作られています。昨年のスローガンは、「仲間に入れて」(Count me in.)でした。今年は、「私は気にかけています」(I care.)です。ロゴもスローガンも、会場のあちこちで目にします。

写真1: 会場前の看板

今回のロゴは、上記のようなデザインです(左側円内右上)。COP19公式サイトでは、このロゴについて、このような説明がつけられています。「すべての変化は、個人から始まります。このロゴは、そのプロセスを表しています。緑色の円は、気候変動を気にかけ、グリーンな将来の役に立ちたいと思っている個人を表しています。灰色の矢印は、グリーンに変わろうというメッセージを受け取った個人を表しています。実現するためには、ひとりひとりのかかわりが必要です。ここポーランドでは、皆が気にかけています。私も。あなたは?」。

写真2:代表的なポーランド料理、ピエロギ

さて、今日は、気候変動による損失と被害(ロス&ダメージ)について解説したいと思います。

14日のレポート(https://www.jccca.org/cop/cop19/04-2)でも書いた通り、気候変動対策には、2つあります。温室効果ガスの排出削減策と、気候変動影響への適応です。

今日のテーマである、気候変動による損失と被害とは、適応できる範囲を超えて発生するものを指します。気候変動枠組条約事務局のレポートでは、「人間及び自然システムに悪影響を及ぼす、途上国における気候変動に伴う影響の実際の発現又は発現の可能性」と定義されています。具体的には、異常気象等による被害や、海面上昇に伴う土地の消失・移住・コミュニティの崩壊などが想定されています。

気候変動枠組条約には、この「適応できる範囲を超えて発生する気候変動影響」が出てきた場合にどうするかが書かれていません。そのため、島嶼国を中心とする途上国は、このような損失・被害の救済のための国際的な仕組みを作るべきだと強く主張してきました。

しかし、この途上国の主張に対し、先進国は強い抵抗を示してきています。それは、いったんこのような仕組みを作ったら、非常に幅広い「損失と被害」を救済することになり、先進国にとって、非常に重い負担となりそうだからです。

また、従来の法的なものの見方からすると、このような「損失と被害」を国際レベルで法的に救済することはそもそも難しいのです。ひとつは、その損失・被害が温室効果ガスの排出によって生じていると直接証明することの難しさです。個々の異常気象が気候変動によるものかどうかを判別することはできないことに注意する必要があります。もうひとつは、どこの国がその損失・被害の原因となる行為を行ったかを特定することの難しさです。

12日のレポート(https://www.jccca.org/cop/cop19/02-2)でも書いた通り、この気候変動による損失と被害の問題は、COP19の主要課題のひとつです。COP18(2012年、ドーハ(カタール))において、途上国における気候変動の影響に伴う損失と損害に対処する制度的取り決め(国際メカニズムを含む。)をCOP19(2013年)で設置することを決定しているため、今回、何らかの合意をする必要があります。

気候変動による損失と被害に関する交渉は、多くの人の予想通り、非常に難航しているようです。1週目、実施に関する補助機関会合(SBI)で議論が行われてきましたが、事務レベルでは合意できず、「閣僚級の助けが必要」とされた問題のひとつです。

閣僚級の助けを借りて、今回、気候変動による損失と被害に今後どのように対処していくかの道筋を見出すことができるでしょうか?交渉を見守っていきたいと思います。

文・写真:久保田 泉(国立環境研究所社会環境システム研究センター主任研究員)

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