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2つの国際制度の狭間に落ちた気候変動対策:フロン対策(11月18日)

フロンは、冷媒、断熱材、洗浄剤、スプレーなどに使われてきました。フロンと聞いて、皆さんはこのように思うかも知れません。「ずっと前に、オゾン層を破壊するということで問題になったけど、今はもう使われていないでしょう?」と。

 

 フロンにはたくさんの種類があります。1987年、「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択されました(1989年発効)。この議定書は、オゾン層を破壊する物質を特定し、その物質の生産・消費の削減・全廃スケジュールの設定などを定めています。これによって使われなくなってきたフロンは、オゾン層を破壊してしまう性質を持つ、CFC、HCFCなど、たくさんの種類のフロンのうちの一部です。これまで、モントリオール議定書のスケジュールに従って、世界全体で、CFCやHCFCなどのオゾン層破壊する性質を持つフロンを使わないようにし、HFCなどのオゾン層を破壊する性質を持たないフロンへの転換が進められてきました。

 

写真1:モントリオール議定書第25回締約国会合(2013年10月、バンコク(タイ))の全体会合の様子

 

ところが、別の問題が明らかになりました。フロンは、CO2に比べると、とても強力な温室効果を持っています。フロンの温室効果は、小さなものでもCO2の100倍以上、大きなものになるとCO2の1万倍以上あります。そして、オゾン層を破壊する性質を持たないけれども、とても強力な温室効果を持つフロン(HFC)は、世界全体で使われる量が急速に増えてきていますが、現在は、一部の排出が規制されているだけです。

 

図1:世界全体のCFC、HCFC、HFCの消費量 (出典:UNEP(2011)HFCs: A Critical Link in Protecting Climate and the Ozone Layer.)

 

図2は、1950年以降のCFC、HCFC、HFCの排出量をCO2の排出量に換算して示したものです。今後、HFCの排出が急速に伸びると予測されています。

 

図2:世界全体のCFC、HCFC、HFCの排出トレンド(2010年まで)と排出予測(2050年まで)(CO2換算)(出典:UNEP(2011)HFCs: A Critical Link in Protecting Climate and the Ozone Layer.)

 

13日の記事で、現在、先進国と途上国が掲げている2020年の温室効果ガスの排出削減目標/削減行動をすべて足し合わせても、地球全体の気温上昇を2℃までに抑えるのに必要な排出削減量に比べると、とても大きな隔たりがあるため、各国の気候変動対策の強化が求められているということをお伝えしました。もし、国際レベルでのHFCの規制が実現すれば、2020年までに約2.2ギガトン(CO2換算)、2050年までに約100ギガトン(CO2換算)の排出を回避できるとされています。

現在、HFCをどの国際制度の下でコントロールするか、ということが大きな問題になっています。現状では、モントリオール議定書と気候変動枠組条約との狭間に落ちてしまっているのです。問題は3つあります。COP19や、モントリオール議定書の締約国会合で主に議論されているのは、下記の問題1ですが、問題2も問題3も非常に重要です。

 

問題1:どちらの制度の下でも、HFCの生産・消費規制が行われていないこと。

問題2:京都議定書では、HFCが対象温室効果ガスに含まれており、一部、排出規制が行われているが、削減数値目標を持つのは先進国のみ。今後、排出が急増するのは途上国であること、また、第2約束期間に参加する先進国が減ってしまっているため、効果はかなり限定的になること。

問題3:どちらの制度の下でも、既に機器に充填されて市中に出回っているCFCとHCFCの排出規制が行われておらず、ゆくゆくは、高い温室効果を持つ両ガスがそのまま大気中に排出されてしまいそうなこと。

 

表1:モントリオール議定書と京都議定書におけるフロンの取り扱い(出典:久保田泉、亀山康子(2012)「国際レベルにおけるフロンガスの生産・消費・排出規制に関する課題と今後の展望」季刊環境研究168号72頁を一部改変)

 

米国とEUは、HFC対策を2020年の「ギャップ」を埋める主な方策のひとつとしてとらえています。このことから、オゾン層破壊効果を持たないHFCについても、モントリオール議定書の下で生産・消費規制を行うよう、今回のCOP19で、モントリオール議定書に対してメッセージを送ろうと主張しています。これは、①これまでモントリオール議定書の下でHFCへの転換が進められてきたこと、②国際的なHFCの生産・消費規制が必要であるため、生産・消費規制を担っているモントリオール議定書で扱うのが適切と考えていること(生産・消費規制がないということは、蛇口を開けっ放しのまま、出てくる水をどうにかしようとしているようなものです)、という理由によるようです。小島嶼国も同様の立場をとっています。

 

中国、インド、産油国、中南米諸国は、この米国とEUの主張に強く反対しており、「HFCは、現在でも京都議定書の対象温室効果ガスのひとつなのだから、引き続き、京都議定書の下で扱うべき」と主張しています。これは、①HFCはオゾン層破壊物質ではないこと、②HFCに代わるような、技術的に利用可能で、安全かつ経済合理的な物質(特に高温の環境下で使えるもの)が見当たらないこと、を理由として挙げています。もちろん、途上国の追加的な負担が発生することを嫌っていることも、反対している大きな理由でしょう。現在の「先進国」と「途上国」の役割分担を前提とするならば、京都議定書の下でHFCを扱い続ける限り、途上国がHFC削減の負担を負うことはないからです。

 

17日の記事では、「2020年までの目標の引き上げをどの程度実現できるかによって、2020年以降の国際枠組みの内容が決まる」ということが先進国と途上国とでほぼ唯一一致している見解だと書きました。フロン対策も、2020年までの気候変動対策をどの程度強化できるかだけではなく、2020年以降の国際枠組みがどうなるかをも左右する要素のひとつと言えます。

 

写真2:アラブ首長国連邦の交渉官。これまで、アラブ諸国の交渉官は男性ばかりでしたが、昨年のCOP18で「気候変動とジェンダー」が取り上げられた影響か、女性交渉官が数人登場しています。

 

文・写真:久保田 泉(国立環境研究所社会環境システム研究センター主任研究員)

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