MENU

COPへの「参加」とは?(11月15日)

先日、「レポートに書いてあった、“交渉グループ”とは何ですか?」という質問を頂きました。交渉グループとは、自らの主張を通すために協力し合う国のまとまりを意味します。代表的な交渉グループとして、欧州連合(EU)、アンブレラ・グループ(EU以外の先進国グループ)、G77+中国(途上国グループ)、小島嶼国連合(AOSIS。小島嶼発展途上国のグループ)、後発発展途上国(LDC)グループ、環境十全性グループ(参加国は、メキシコ、リヒテンシュタイン、モナコ、韓国、スイス)などが挙げられます。

気候変動枠組条約の締約国の数は、195にのぼります。国連の会議では、原則として、多数決ではなく、コンセンサス(反対意思の表明がないことを意味します。)方式で物事を決めていきます。大きな国も、小さな国も、1つの国としての意思が尊重されるシステムになっているわけですが、この方式の下では、1か国だけの力で主張を通すのは大変です。したがって、利害の似通った国が集まって、交渉グループの主張として通すように協力していきます。近年の気候変動交渉の特徴のひとつとして、この交渉グループが非常に増えていることが挙げられます。この原因は、現在の交渉では、排出削減策だけではなくて、適応策や資金・技術支援等も含めた包括的な気候変動対処のための制度の構築を目指していることから、主に、途上国同士の利害関係が複雑化しているためです。

 

写真1:会場のフードコートで販売されているお寿司。大・中・小とあって、これは小。日本円で700円弱です。

 

さて、今日は、COPへの「参加」について、解説したいと思います。COPは、気候変動問題に様々な観点から取り組んでいる人が一堂に会する場です。今回も10,106人が参加登録をしています。

気候変動交渉は、政府間交渉なので、各国の政治家や、気候変動問題に関連する省庁関係者同士の議論がメインです。国際機関等からの参加者は、交渉に関連する情報をインプットします。メディアからの参加者は、交渉の進捗状況などを取材して、このCOPの場で何が起こっているかを知らせています。では、NGOは、どのようにCOPに参加しているのでしょうか?

気候変動COPに参加しているNGOというと、環境保護団体を思い浮かべる方が多いのではないかと思いますが、それだけではありません。私の所属機関である国立環境研究所は、研究NGO(RINGO)のひとつですし、産業界NGO(BINGO)、若者NGO(YOUNGO)、農民連盟(Farmers Union)、少数民族に関するNGOなど、実に多様なNGOが気候変動COPに関わっています。

 COPに参加する方法はいくつかあります。そのひとつとして、サイドイベントの開催とこれへの参加があります。COP期間中、多くの各国政府、国際機関、研究機関などが、自らの成果のお披露目のためにサイドイベントを開催します。もともとは、お昼休みと会議終了後の夕方の時間帯だけでしたが、近年は、開催希望が多いため、サイドイベント開催時間を拡大しています。なお、今回は、COP19全体のイベントのほか、EU、米国、日本、中国、インドネシアなどが自国のパビリオンを設置しており、各国の研究成果や事業の成果などを発表するサイドイベントが開催されています。この各国パビリオンでは、研究成果のみならず、各国の特色を前面に打ち出しているところが面白いです。

 

写真2:中国パビリオンで習字に挑戦する参加者たち (写真出典:ENB http://www.iisd.ca/climate/cop19/enb/images/15nov/5china-pav_1331.jpg

 

今日(11月15日)、国立環境研究所は、マレーシア工科大学(UTM)と共同で、「マレーシアそしてアジア全域での低炭素社会実現に向けたロードマップと実践」と題するサイドイベントを開催しました。

このサイドイベントでは、環境省環境研究総合推進費S-6「アジア低炭素社会に向けた中長期的政策オプションの立案・予測・評価手法の開発とその普及に関する総合的研究(アジア低炭素社会研究プロジェクト)」の下でとりまとめた、低炭素アジアの実現に向けた10の方策による温室効果ガス削減可能性に関する最新の研究成果が報告されました。また、グリーン成長を目指すマレーシアの経済特区である、ジョホール州イスカンダル開発地域の低炭素社会計画の紹介がありました。また、都市レベルの低炭素社会シナリオの実装について、マレーシアのプトラジャヤの事例研究が紹介されました。これらの実現のためにはどうすればよいか、障壁となるものは何かなどについて、活発な議論が行われました。

 

写真3:アジア低炭素社会研究に関する最新の成果を手にするパネリストたち

 

参加方法の2つ目として、展示ブースを設置することや、その訪問があります。会場内には、政府、国際機関、NGO等によるたくさんの展示ブースが並んでいます。ブース設置を希望する各団体に与えられるスペースは狭いのですが、各団体が事業や研究成果等のアピールのために工夫をこらして展示しています。 

国立環境研究所は、COP10(2004年)以降、毎年、展示ブースを設置しています。今回は、アジア太平洋統合評価モデル(AIM)を用いた低炭素社会構築のためのシナリオや温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)及び温室効果ガス観測技術衛星2号(GOSAT-2)を含む、様々な観測プラットフォームによる温室効果ガスモニタリング及び炭素収支に関する研究成果の展示を行いました(今回、国立環境研究所の展示ブースは、1週目のみで展示を終了しています)。

 

写真4:国立環境研究所の展示ブース(写真提供:(独)国立環境研究所環境計測研究センター Pang Shijuan氏)。

 

参加方法の3つ目として、交渉の傍聴があります。近年は、動画配信、交渉中のドキュメントの電子共有もかなり進んでおり、日本にいながら、遠くの国で開催されるCOPにバーチャル参加という方法もあります。ですが、すべての会議の動画が配信されるわけではないことや、COPの場に来れば、様々な専門性を有する方と意見交換ができることに私はメリットを感じているので、11年前から、毎年、COPに出席しています。交渉を傍聴するほか、交渉に自らの主張を反映させようと、ロビー活動をする人達もいます。

 このように、COPには、政府関係者として気候変動交渉に直接携わるだけではなく、様々な参加の道が用意されています。COPに実際に参加するには、COPに認められた団体を通じて参加登録を行うことになりますし、近年は、参加希望者が多いことから、NGOに対し、参加者数の枠があらかじめ配分されるようになっています。したがって、バーチャル参加以外は、誰でも自由にCOPに参加できるとまでは言えませんが、参加への道は他の条約等に比べると広く開かれていると言えます。

私は、主に、気候変動への適応策に関する制度について、どのような経緯で合意が形成されているのか、新しい国際枠組みにおける適応支援策の位置づけとはどのようなものかを把握するために、毎年、COPに参加していますが、交渉経緯の把握にとどまらず、COPの場で多くの人と会っていろいろな話をすることが、研究の活力になっています。

 

文・写真1及び3:久保田 泉(国立環境研究所社会環境システム研究センター主任研究員)

目次
閉じる