第20回締約国会議(COP20)

気候変動影響への適応とは?

 筆者は、ホテル―会議場の往復には、会議参加者用のシャトルバスを利用しています。ホテルがある地域ごとにいくつかの路線があり、約15分に1本(遠くのバス停についてはもっと頻度が低いようです)、ほぼ夜通しで運行しています。COP20初日は、シャトルバスを待つ長蛇の列ができていて(写真1)、どうなることかと思いましたが、2日目以降はほどほどの混み具合です。道路がいつも渋滞していて、通勤に40分ほどかかりますが、会場入り口まで直通ですし、長距離路線に使われるような座席スペースが広いバスが使われていることが多いため、それほど苦になりません。


写真1:初日のCOP20開会セレモニーにぎりぎり間に合うくらいの時間発のバスを待つ行列。皆さん、考えることは一緒のようです(筆者も含めて)。

 さて、今日は、気候変動影響への適応について、解説したいと思います。

 皆さんが「気候変動対策」と聞いて思い浮かべるのは、温室効果ガスの排出削減ではないでしょうか?気候変動対策には、もうひとつあります。それが適応策です。

適応とは何でしょうか?気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、気候変動の影響への適応とは、「気候変動の影響に対し自然・人間システムを調整することにより、被害を防止・軽減し、あるいはその便益の機会を活用すること」と定義されています。適応は、基本的に地方レベルの対応とされ、具体例としては、沿岸防護のための堤防や防波堤の構築・改善、水資源の効率的な利用や、農作物の高温障害への対応としての高温に強い品種への転換などが挙げられます。なお、気候変動対策は、あくまでも排出削減が主であり、適応策は、それを補完するものと位置づけられていることに注意が必要です。

適応策は、2020年以降の気候変動対処のための国際枠組みの重要項目のひとつです。今後、排出削減策を強化しても、気候変動影響が出てしまうことは避けられないとされています。途上国では、気候変動の影響が先進国よりも深刻化することが予測され、それによって、途上国が国内の持続可能な発展目標を達成することができなくなってしまうかも知れません。加えて、途上国では、適応策を実施するための資金、技術、能力が不足しています。そのため、途上国は先進国に対して、適応策への資金・技術支援を求めています。また、先進国でも気候変動影響への適応は必要であり、日本でも、2015年夏頃を目途に、政府全体の適応計画が策定されることになっています。

適応は、以下の5つの構成要素に分けられます。①観測、②気候変動影響と脆弱性(気候変動影響の受けやすさ、または、影響に対処できない度合いを意味します。たとえば、同じ熱波でも、高齢者の方が影響をより受けやすく脆弱であると言えます)の評価、③適応計画の策定、④適応計画の実施、⑤適応策実施のモニタリングと評価。

 この適応策に関連して、今日公表された国連環境計画(UNEP)による「適応ギャップ報告書」(UNEP Adaptation Gap Report)と、日本パビリオン(筆者注:COP20会場に設置されている、日本政府や日本の研究機関等の研究成果や事業の成果などを発表するサイドイベントのためのスペース)で昨日開催されたサイドイベントについて紹介します。

 UNEPの「適応ギャップ報告書」は、地球全体の適応についての、資金、技術、知見のギャップがどのくらいあるかを暫定的に評価し、ギャップをどのように定義するか、そして、これらギャップをどのように埋めるかに関する今後の作業枠組みを示したものです。昨日の記事で、同じUNEPが2011年から公表してきている「排出ギャップ報告書」を紹介しましたが、この適応版である「適応ギャップ報告書」が今回初めて作成されました。

 「適応ギャップ報告書」は、今世紀中に地球の平均気温上昇が2℃を下回ることが可能なレベルに地球全体の温室効果ガスの排出を削減できたとしても、2050年の途上国における気候変動影響への適応のための費用は、IPCC第5次評価報告書(年間700億ドルから1000億ドル)で示された推計を2倍から3倍上回る見通しであることを示しています。

昨日の記事でも説明した通り、現在、各国が提出している2020年の温室効果ガスの削減目標(先進国)や削減行動(途上国)をすべて足し合わせても、国際社会が目指している「世界全体の気温上昇が2℃より下にとどまる」ことの実現に必要な削減量とはかけ離れています。上記の推計は、地球全体の平均気温上昇を2℃より下に抑えた場合を仮定していますから、これが達成できなければ、適応の費用はさらに高いものとなるでしょう。

 そして、同報告書は、2012年から2013年の適応のために投じられた公的資金は、230億ドルから260億ドルだが、今後、適応のための新規かつ追加的な資金が投じられない限り、2020年には資金について著しいギャップが生じるとしています。

 さらに、温室効果ガスの排出削減のための追加的対策がとられなければ、適応のための費用は跳ね上がり、さらに、干ばつや洪水、海面上昇のような、強まる気候変動影響から人々を守るために、幅広く、費用のかかる対策をとる必要が生じるだろう、としています。


写真2:会場のカフェテリアで食べたセビーチェ(魚介類のマリネ)。昨日から、会場内での提供が始まりました。奥に写っているのはインカコーラ。

 また、昨日、(独)国立環境研究所は、国連環境計画(UNEP)の気候変動に対する脆弱性・影響・適応に関する研究プログラム(PROVIA)と一緒に、サイドイベント「適応計画に関する近年の動向」を開催しました。このイベントでは、PROVIAが、脆弱性及び影響評価を担う研究者コミュニティーに向けて、研究の優先事項のリストを作ったこと、そして、今後、各国で進められていく、科学的知見を基盤とした適応計画の策定にどのように活かされていくかなどについて紹介しました。そして、筆者が、日本の研究プロジェクトである、環境省環境研究総合推進費S-8「温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究」がどのように国レベル及び地方レベルの適応策策定に貢献してきているかを紹介しました。その後、イベント参加者とパネリストとの間で、脆弱性・影響・適応に関する研究がどのように各国の適応計画策定過程に貢献していくか、その際の課題とは何か、どのようにそれらを乗り越えるかなどについての意見交換がありました。


写真3:NIES-PROVIAサイドイベント後のパネリスト達(左から2番目が筆者)
(写真提供:(独)国立環境研究所環境計測研究センター Pang Shijuan氏)

午後には、フィゲレス条約事務局長による、オブザーバー団体へのブリーフィングがありました。2020年以降の国際枠組みについて議論している、強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)の作業の進捗状況をはじめ、科学上及び技術上の助言に関する補助機関(SBSTA)と実施に関する補助機関(SBI)の作業の進捗状況、明日開催される先進国の気候変動対策の多国間評価や、来週の閣僚級会合の構成などについての説明があり、参加者との若干のやりとりがありました。


写真4:オブザーバー団体へのブリーフィングに臨むフィゲレス条約事務局長

参考資料:
・UNEP 2014. The Adaptation Gap Report 2014. United Nations Environment Programme (UNEP), Nairobi (英語)
http://www.unep.org/climatechange/adaptation/gapreport2014/

文・写真(写真3を除く):久保田 泉(国立環境研究所社会環境システム研究センター主任研究員)

このページのトップへ